本質的にちくらぎ

文芸サークル「本質的にちくらぎ」のページです!

テキスト系同人誌(文章系同人誌)のレビュー企画|第六号――横浜市立大学文芸部『勿忘草 春号』

まあ、私のくたびれ感はさて置き。当時新入生だった私は、入学式に貰った『檸檬』で文芸部の名前を見る前から、「入ろう!」と思っていました。と言っても、私は根っからの文芸青年と言うわけではなく(ここまで私が女である可能性を捨てずに頑張って来た方、すいません。私は男です。紳士です)、小学生から高校生まで野球をやっており、文芸部からは懸け離れた場所にいました。ですが、受験期から小説を書き始めていた私は、どうしても語り合える執筆仲間が欲しく、文芸部の門戸を叩いたわけです(実際叩いたのは鉄製の扉です)。当時髭ボーボー(完全に黒歴史)だった私を、文芸部の方々は快く受け入れてくれました。その時のことは、今でも鮮明に、鮮明過ぎて頭が痛くなるほどに覚えています。部誌を作ったり、作品の批評会をしたり、公募の小説賞に応募するメンバーで推敲会を行ったりするだけではなく、部室でだべったり、一緒にカラオケに行ったりして、私達は今日まで絆を育んで来ました。私はこの絆を、今度は新入部員の方々と育んでいけたらなと思っています。本気でプロを目指している人、素人だけど小説が好きな人、イラストが描ける人、いつか小説を書いてみたいと思っている人、小説について語りたい人、皆々大歓迎です。私達と一緒に、物語を、絆を創り上げましょう。部員一同、文芸部の部室でお待ちしております。――横浜市立大学文芸「新入生の方々へ」より

 

 本稿では、横浜市立大学文芸部の「勿忘草 春号」をとりあげます。書かない部員――「校正」部員、「編集」部員など――がいるめずらしいところだなあ、と、気になっておりました。文フリで見かけたので購入しに向かったら、部誌をいただき(これ無料でいいんですか……大盤振る舞いや……)、いやはや、すごいサークルがあるものです。

 

購入動機と星型レビュー

【購入動機】(無料配布でしたので実際には購入していません)

(1)校正や編集専任の部員がいる
(2)立ち読みしているときに静かに待ってくれた(部誌の説明もわかりやすかったです)

 

【星型レビュー】

装丁:☆☆☆     *表紙絵かわいいですが、ホチキスが少し雑です
編集:☆☆
校正:☆
目次:☆☆      *見やすいのですが、「前編」が抜けてます
小説:☆       *テーマが「春の花」ではなく、実質的に「男が主人公の恋物語」になっています
短詩:☆☆☆
企画:☆☆
後書:☆☆
奥付:☆☆☆


装丁

 中綴じですね。奥付に印刷所の名前がないので、手製でしょう。ホチキスの針を抜いてみたのですが(本を損なってしまって申し訳ありません…釈明をするとすれば、真ん中のホチキスが完全に中まで通っていなかったので抜き取りました)、おそらくホチキスを打つときに受け手を使用していないであろう歪みがありました。受け手は特段なんでもよく、予算がなければ消しゴムで構いません。消しゴムをホチキスの受け手にするだけで、ほんとうに綺麗に打つことができます。

 

 また、中綴じのよさは、紙面をノドいっぱいに使えるところです。本の見かけ上の余白が増えるということです。それなのに均等に組版されていて、逆に余白が違和感になってしまっております。


校正

 本当に、校正専任の部員がいるのでしょうか。包み隠さず申しますと、ここに関しては非常にがっかりしました。無料でもらっておいて、上から目線のようで心苦しいのですが、ボロボロです。今回は、小説の「構成」と「校正」の二軸でレビューして参ります。


「元気守」――野々宮琳家さん

 いろいろと疑問点が多くて読めませんでした。ここでは一点、一点、改めて洗い出してゆこうと思います。

 

 作品は八枚の短編。「結婚式を挙げる前の日に、亡き妹が成長して参拝しに来て、それとは知らない兄が浮気心をやや抱き、絵馬メッセージを通じて妹だと気づき、シスコンを自覚する話」です。ただ、短編は出来事を書くのに向いており、人物を書くのはほとんど無理です。ここでも「妹の幽霊が参拝しにきた」という出来事を書くのが精一杯になっており、シスコンに自覚する実彰や妹の人物性を書けておりません(妹が短命だった根拠が「桜」という名前、というのは、あまりに雑すぎですよね)。

 

 書けないのは当たり前なのでよいのですが、書こうとして書けていないので描写がすべて中途半端になっている印象です。人物を書くのを諦めて、「結婚式前日の妹の幽霊の参拝」に集中すれば、(題材はありきたりですが)もっとおもしろくなったと感じます。ただそうなると、春号のテーマ「花」を書けなくなるので、また難しくなります。今回は「テーマ:花→桜→短命→桜という名前の妹の幽霊→結婚直前の兄を煽る」という、雑なアイデアなので、もう少し洗練させたいところだと感じました。

 

 まず冒頭です。

 

風の強い春の日だった。作務衣でも寒くない陽気になったと、神社の息子、宮路実彰(みやじさねあき)はしみじみ思う。(…)ついさっき撒いてきた外祭(がいさい)で余った米をつつきに来た鳥が、ちゅんちゅん鳴くのが窓越しに微かに聞こえるばかりである。風が吹く度に、向こうに見える桜の春の欠片を散らした。(p.6) 

 

 (1)「(本日は)◎◎な日である」、(2)季節の変化の感じた話、(3)鳥がちゅんちゅんと鳴いている――ここから想像するのは、朝でしょうか、昼でしょうか、夕方でしょうか、夜でしょうか。

 

特に何もない、暇で、平和な昼下がり。(p.6)

 

 昼下がりだったのですね。叙述トリックかもしれませんが、私は朝だと思い込んでおりました。この時点で、かなり「合わないな」と感じてしまいました。

 

辛く、寒かった冬が終わり、春を告げる桜が綻んでいる。(p.6) 

 

 花は「咲き」、蕾は「綻ぶ」ものです。「桜が綻ぶ」では、中途半端な表現になります。読みにくいです。

 

そもそも愛想をつかれた[原文ママ]わけではない、と実彰が眉を寄せ[原文ママ]るのをこの老神職はけらけら笑って見せる。全くもって失礼な話である。このお茶目な性格の老神職は実彰が生まれた時にすでに実彰の父が宮司を務める神社にいた。前は違う職に就いていたらしいが、聞くたびに違う職を言われるものだから、実彰はとうの昔に聞くのをやめた。(p.7) 

 

(1)「お茶目な性格」を「お茶目な性格」と言ってしまったら、小説にしている意味がないのでは、と思ってしまいました。以前のレビューにも記しましたが、主人公が孤独であることを「主人公は孤独だった」と言ってしまったり、主人公が地球を救ったことを「主人公は地球を救った」と言ってしまったら、もう滑稽ですよね。「恥ずかしい」ではなくて、「赤面した」と書くから描写になるわけで、「僕は恥ずかしかった」では小学生の日記と区別できません。

 

(2)「聞くたびに違う職を言われるものだから、実彰はとうの昔に聞くのをやめた」というつながりがよくわかりませんでした。同じ作家として想像する限りでは、老神職を「てきとうなひと」と説明したかった(描写したかった)のかもしれませんが、実彰が聞くのをやめた動機がよくわからず、浅い人物説明にしかなっておりません。老職人の前職は作品とまったく関係ない瑣末なところなので、ここで無理やり入れる――「このお茶目な性格の~」のために余計な二文を増やす――必要はなかったかなと思います。

 

(3)名前を伏せながら進むと、どうしても「この老神職は」のような書きかたになってしまいますが、続くと気持ち悪いので工夫が必要です。

 

(4)わざわざ「実彰の父が宮司を務める神社」という説明文が挿入されていますが、あまりに説明的で文章のリズムを損ねております。どうしてもこの情報を出したいなら、文章を区切るべきです。そもそも文章作法で言われる「一文を短く」の目的はここにあります。「生まれたときには神社にいた古参だ」という情報と、「その神社は実彰の父が宮司をしている神社だ」という情報は、分けて書いたほうがひとつひとつの文の意図を損ねなくて済みます。

 

落ち着ける、はずがなかった。休日は家の手伝いに回る。そんないつも通りの日常を送れば、落ち着いて明日を迎えられるだろう……なんて甘かった。(p.7)

 

 視点がいきなり実彰の一人称になりました。カフカなどがよく使う手ですが、ヘタすると一気に読みにくくなります。ここでは読みにくくなった印象です。他にもあるので、一気に出します。

 

昔は、結婚式とは神社で挙げるものだと思っていた。そんなに有名な神社ではないが、それでも他の市からわざわざ式を挙げにくる方もいる。たまにではあるが、実彰は小さな頃からこの神社で挙式が行われるのを見て育った。紋付き袴は勿論のこと、白無垢も打掛も見慣れたものだ。いつから結婚式は教会で挙げようと思ったのだろう。小さい頃は自分も神職になるつもりだったのが、気づくと理系の大学に進み、一般企業に勤めていた。(p.7-8) 

 

 「昔は思っていた」とか、「くる方もいる」とか、「たまにではあるが」とか、視点が実彰に寄っています。

 

この元気守……みたまんまてるてる坊主の形をしたお守りである。天気と元気を掛けた、まぁ言ってしまえばそれだけのものだ。明日天気にしておくれ、ならぬ、明日元気にしておくれ、とでもいったものか。可愛らしい見た目から、お子様に人気のお守りである。(p.8) 

 

 誰が誰に説明している説明文でしょうか。「まぁ」とか誰でしょうか。「言ってしまえば」とか誰でしょうか。「とでもいったものか」とか「お子様」とか言っちゃってるひとは誰でしょうか。説明を入れたいのはわかりますが、こういう内容はとことん説明的になります。淡白な説明を避けようと思って地の文でやると、こういうミスをしてしまうものです。どうしてもセリフにいれるしかありません。

 

「見たままですが、もしかして、明日元気にしておくれ、ですか」
「ええまぁ、言ってしまえばそうですね。ダジャレです、やっぱり寒いですよね」
「いえ、私、そういうのすごく好きなんですけれど、むしろ私が子どもっぽいですかね」
「そんなことないと思いますよ、もちろん見た目が可愛いのでお子様からは人気ですけど」
ふたりは見合いながら控えめに笑った。

 

という感じのセリフを入れてしまえば、ここで説明したいことを、説明文にせずクリアできます。

 

そういえば、何年前からあっただろうか。確認しようと思い振り返ったが、老神職の姿はなかった。彼に聞けば分かるだろうと思っていたが、当てが外れた。(p.8) 

 

 視点がおかしいところのほかに、「~したが、…だった」が連続していて気持ち悪く感じます。

 

在庫引き出しからてるてる坊主……ならぬ、元気守と絵馬、それから神札袋を出しておいて、先に女性から初穂料を頂く。元気守は神札袋に入れて、絵馬と受付の黒いペンを合わせて渡した。(p.9) 

 

 視点の話はここまでにして、その他の校正に戻ります。

 

それすらも老神職を喜ばせる材料となるのだが、実彰にはそれを気にする余裕もない。(p.7)

 

 たとえば「それすらも老神職を喜ばせる材料となってしまう、ということに気づくだけの余裕が(or さえ)実彰にはなかった」とすれば、「それ」を二重に使わなくて済みます。指示代名詞が何重にもなると、読む側の負担になります――それは主に書く側のサボりということです。必要がないときは、できるかぎり排除するように心がけるとよいと感じます。

 

軽く会釈したその女性は、前に垂れた髪をそっと耳に掛けた。頭を上げて気付いたが、なかなかの美人である。打掛が似合いそうだな、とそこまで考えて明日嫁となる自分の彼女を思いだす。実彰は何もやましいことはしていないのに、なぜか決まりの悪い気持ちになった。(p.8)

 

 休日は神社に来ているわけですから、こんな美人女性は「そこそこよく見かける」はずですよね(人気の神社なわけですし)。なんで耐性がないように書かれているのでしょうか。しかも自己分析できておらず「なぜか」と書かれております。よくわからなくてまったく感情移入できません。(「内心ほっとしながら」「なぜかいたたまれない気持ちになり」など他にも耐性がない説明があります)。

 

げ、と思ったが、(…)。(p.9)

 

 異論はあるかもしれませんが、「げ」のところを「げ」に任せず描写してほしいところです。

 

【その他の校正要素】
・「先程」「さっき」
・「入居清祓だっただろうか」脱字
・「愛想をつかれる」〈つかされる〉
・「眉を寄せる」〈眉根を寄せる〉?
・「ちゅんちゅん鳴く」「けらけら笑う」「端がべろべろになって」「かりかりとめくって」
・「特に何もない」「なんだかんだ」「なにが嬉しくて」「なにかございましたら」「何もやましいことは」「なんでしょう」などなど
・「突っ込んだ」「しゃがみこんだ」「込み上げる」
・「気づく」「気付いたが」「折り目が付いて」
・「手に着かず」誤字
・「一人でごちながら」〈独りごちながら〉?
・「感慨にふける」〈感慨にひたる〉?
・「声を掛ける」「お声かけください」「笑いかける」「窓際にかかる」「話かける」
・「思いだす」複合動詞/「顔を出して」一般動詞
・「みる/見る」
・「いう/言う」
・「実彰はけっこう絵馬の願い事をよく盗み見ていた」〈けっこう~よく…〉の重複
・「けっこう/結構」
・「あう/合う」
・「わかる/分かる」
・「よう/様」形式名詞の揺れ
・「社務所を後にした。草履を履いて外に出る」説明文の重複
・「持ってく/持って行く」
・「いく/行く」形式動詞の揺れ


「春霞」――すずりさん

 十四枚の短編。セリフでしか人物設定する気のない、いわゆる「ラノベ風」の文章、と思いきや中途半端な描写が入ってくるので、読むのはかなりしんどいです。まずは冒頭から見ていきますね。

 

 放課後を告げるチャイムが鳴ってからしばらく経った小学校の校庭。広いグランド[原文ママ]を帰宅する子供の群れがぽつり、ぽつりとまばらに過ぎていく。人気は少なく、どこか寂しい。
 ところが校舎の壁がすぐそこにせまる校庭のすみっこ。数本の常緑樹が植えられたそこで、閑散とした校庭には似つかわしくない何やら騒がしい物音がする。
「いいよぉ……やめてよぉ……」(p.14) 

 

(1)「~からしばらく経った校庭。広いグランドを~」の重複が気になります。文章を分ける必要性がまったく感じられませんでした。

(2)「閑散とした広いグランド」に似つかわしい、「騒がしい物音」とはどんなものかと思いきや、「いいよぉ……やめてよぉ……」は、さすがに違和感があります。

(3)樹の話は必要だったのでしょうか。

(4)「どこか寂しい」のは誰でしょうか。

 

 この「誰でしょうか」問題は、さきほどの野々宮さんのところでもいくつかありましたが、すずりさんのところでも発生しております。三人称視点で書くのは、意外と難しいのかもしれませんね。一気に出します。

 

木陰から聞こえたのは少女のぐすり声だ。(p.14)
気の強そうな少女の声がぐずり声の少女をすぐさま叱り飛ばす。(p.14)
さきほどの叱責に萎縮したのだろうか。(p.14)
相変わらず語気の荒い少女の声が、煮えきらない少女の態度にますます怒りを募らせた。(p.14)
何を今更と言わんばかりの苛立った声が飛ぶ。(p.15)
香澄ちゃんと呼ばれた少女は構うことなく目的へと向かった。(p.15)
目的はほんの目の先。木の枝に引っかかったそれは今子供に人気の戦隊もののイラストがプリントされたハンカチである。(p.15)
これ以上の無茶は勘弁してと言いたげな声が返ってくる。(p.16)
キョーコと呼ばれた少女が木の下から離れたことを香澄は確認し、今度は~。(p.16)
相変わらずの強い語気で香澄がキョーコ、もとい恭子に言い放ったが、~。(p.16)
香澄の口が何か言いたげに聞いたが、まあいいかと思ったのか閉じた。(p.16)
ついで、自らの進路希望を書き込んだと思われる用紙をこれみよがしにひらひらとさせる。(p.16)
まだ来年か、もう来年か。(p.17)
無理やり話を終わらそうとしたのか香澄が剣呑とした目つきを恭子に向ける。(p.18)
一体どこに向かうのだろうかと思いながら引きずられていった先は、――――職員室。(p.22)
それからある先生を呼び出した。(p.22)
野次馬じみた視線が、気持ち悪い。(p.22)
一刻一刻と時が過ぎていくとともに事態が膨張していくのが身に感じられた。(p.23)
引き攣った声で恭子に尋ねた。いや、おかしい。こちらの方が有利なはずだ。こんな言いがかり、握りつぶせるはずだ。こいつさえ黙らせば……!(p.26) 

 

 次にいきます。

 

小学生の体重を支えるのには少し頼りない細さの枝が、少女の一挙一動に揺れる。(p.15) 

 

 可読性の低さを表示するために、あえて英語にすると、「A branch having thinness which was a little undependable staff as a support of schoolchild's weight was shaken with everything she did」となります。つまり、

 

「A branch was shaken」(枝が揺れる)
「A branch having thinness was shaken」(細さのある枝が揺れる)
「A branch having thinness which was a little undependable staff was shaken with everything she did」(少し頼りない細さの枝が、少女の一挙一動に揺れる)
「A branch / having thinness / which was a little undependable staff / as a support of schoolchild's weight / was shaken / with everything / she did」(小学生の体重を支えるのには / 少し頼りない / 細さの / 枝が、/ 少女の一挙一動に / 揺れる)

 

という修飾の形になっております。煩雑になっているのがなんとなくわかると思います。じぶんの文章が、ときに見た目以上の煩雑さ(可読性の低さ)をともなっているときもあるので、どうにか確認できる手段を持っておくのがよいでしょう。いまのように、別の言語に翻訳してみると、簡単におかしさに気付けることが多々あるのでおすすめです。試しに、もうひとつ可読性がほしいところな、と思うところを勝手に英訳させてもらいます。

 

その第一回目が来週と迫ったこの高校の、現在二年生、春には三年生になる生徒たちが通う教室が並んでいるこの二階では、おかげで春休み前特有の浮ついた様子があまり見られなかった。(p.17)

 

 「At second floor / where included any classrooms / to which some students went / who was second-year, / third-year in spring later, / of this school / where they were going / to take the first consultation / the coming week, / thank to that situation, / they seemed almost always honest / without an atmosphere / unique to just-before-spring-vacation.」という英文ができあがると思います。文構造が何重にもなっていて読みにくいです。

 

「香澄ちゃん……もういいよぉ……!」
悲痛な声が校庭に響いた。危ないからやめてと少女が再びぐずり始める。(p.15) 

 

 「広いグランド」とありましたが、「もういいよぉ……」という声が「校庭に響く」のでしょうか。

 
【その他の校正要素】
・「グランド」一般的には〈グラウンド〉
・「上を見上げる」まちがいではありませんが違和感のある重複です。
・「枝が細く分かれ始めた箇所」とは?
・「腰を落ち着け」〈落ち着かせ〉?
・「なに/何」
・「邪魔だから下といてなさいよ」脱字?
・「声をあげる/あがる/上げる」
・「呆気なく折れる音がした」?
・「おちる/落ちる」
・「みる/見える」
・「ぷくーっと頬を膨らませる」「ぷりぷりと怒る」「ぞわっと身の毛がよだった」「ぎゃーぎゃーと」擬態語にイメージを頼り過ぎかな、と思いました。
・「ひったくり」「引っ張る」
・「にぃーと口を尖らせる」〈-i〉音では尖りません
・「とき/時」
・「のぞきこむ/呑み込み/踏み込む/黙り込む」
・「見覚えは無い。連絡はない」揺れ
・「わかる/分かる」
・「一足飛びに跳び始めて」
・「気味の悪い悪寒が香澄の背中を走る」 〈に〉?
・「気づく/気付く」
・場面転換の空行数の揺れ、p.25が特に違和感
・「しばらくの間、少女はその場で」途中からなぜか名前になり、また〈少女〉に戻りました
・「可愛らしい恭子の声が言ったにも関わらず」〈声が言う〉に違和感。〈拘らず〉?
・p.27 下段左6行目、記号後のスペース処理問題

 

 

「ちいさなぼくらに」――木登じゅんさん

 早くに母親を亡くした「俺」にとっての母親代わりの年上の幼なじみに恋をするけれど、彼女は大学を卒業して東京に行ってしまうことになり、上京の前日に想いを伝える恋愛ストーリーです。九枚の短編ですが、「俺」の内面をそこそこ丁寧に書けている印象でした。ところどころ光る表現もあって、よかったです。まずは冒頭。

 

自転車で十五分も走れば、見慣れた河川敷にたどり着く。花の白が黄色が、草の緑が、みんなまとめて夕日に照らされ、真っ赤に萌えていた。(p.30) 

 

 みんなまとめて、というところが風景への全体的なイメージとなっていて、とても好きです。

 

 誠人は一人称で語りますが、逆の「誰でしょうか?」問題もありました。説明しようとしすぎて起こりうるものです。

 

沈んでいく炎を見届けながら想うのは、これからここに来る幼馴染、ちづ姉こと千鶴のことだった。(p.30)

 

 そこから読み進めると、やや気になる表現が出てきます。大事なところなだけに、余計に気になります。

 

五年前、中学一年の冬。俺は母さんを病気で失った。目まぐるしい身の回りの変化に悲しむ暇もなく、年の離れた幼い弟たちを抱えて途方に暮れたものだ。(p.31) 

 

 悲しむ暇はないのに、途方に暮れる暇はあるのかよ!?、と思ってしまいました。

 

「はい。誠人はブラックコーヒーだよね」

「おう、サンキュ」
(…)くすくすと笑う声を聞きながら缶に口をつけると、香ばしく落ち着いた匂いが広がった。初めは背伸びしたくて飲み始めたが、今ではいつもこればっかり飲んでいる気がする。
「誠人、大きくなったよね。コーヒーなんか飲んじゃって」(p.32) 

 

(1)「口をつける」は、食べるとか飲むという意味ですが、「缶を飲む」になってしまうので、意味を優先して「缶コーヒーに口をつける」とするか、事実を優先して「口に缶をつける」にすべきでしょう。「缶に口をつける」は、中途半端で犬のような飲みかたをしているのかのよう思えました。

 

(2)「くすくすと笑う声を聞く」ですが、違和感です。「くすくすと」とわざわざ書く必要はあったのでしょうか。「控えめに笑うちづ姉の声を聞きながら」のように書き、文章を幼稚にする擬音語に頼りすぎないようにしたほうがよいかと思いました。

 

(3)「初めは~飲み始めた」はしつこいような気がします。

 

(4)コーヒーに対して「香ばしく落ち着いた匂いが広がった」という形容は違和感があります。せめて「落ち着いた匂いと香ばしさが広がった」とか「落ち着いた匂いが一気に香った」など、それが香りであったことを優先させたほうがよいと感じます。(ブラックコーヒーばかり飲んでいるひとはふつう、「コーヒの香り」とは言うけれど、「コーヒーの匂い」とは言わないので)。

 

(5)ブラックコーヒーに関する情報を、ちづ姉はどれほど持っているのかよくわかりませんでした。「今ではいつもこればっかり飲んでいる」のであれば、ちづ姉はもっと早い段階で「大きくなったよね」と言うチャンスがあったと思います。この後のピーマンの茶化しなどを考えると、ちづ姉はコーヒーの話題で誠人をいじりたいはずです。それがここのタイミングというのは遅いようですから、そうなると「どうしてちづ姉は知らなかったのか」という疑問が出てきて、わからなくなりました。

 

「ちょっとぉ、何ですかその顔は」
「いいや、別に」
「ふんっ」
 ぷすーっと頬を膨らませ顔を背けたちづ姉が(…)。(p.33) 

 

 文章が幼すぎて、ちづ姉がとても幼く感じてしまいます。「ちょっとぉ」も「ふんっ」も「ぷすーっと」も、それを書かずにどうにか表現できないものでしょうか。

 

 画面の中の俺が右手を軽く上げると、ちづ姉の左手が伸びた。俺の右手に柔らかい物が当たって、画面の中の俺たちは手をつないでいた。そのまま、不慣れな作り笑顔を向けようとしたが。
(…)
「知ってる。けどほら、笑って笑ってー……」
 言いながら、画面の中のちづ姉がさらに俺に近付き、(…)笑みがこぼれた時、カシャ、とシャッター音が鳴った。(p.34) 

 

(1)「画面の中」を強調するのは、なぜでしょうか。おそらくこのシーンが好きなんでしょうけれど、急に映像的な部分を強調された地の文にしても、読んでいて気持ち悪いです。好きなシーンも普通に書けるようにするのはむずかしいのですが、ここは愛情が強すぎます。

 

(2)「カシャ、とシャッター音が鳴った」も、擬音語を使わずにどうにかならなかったのでしょうか。

 

「……待ってるから。待ってるん、だから……」
 えぐえぐとちづ姉は泣きだした。涙と一緒に、本音もぼろぼろと溢れてくる。
「東京なんか、行ぎだぐないぃ」
「言わないでくれよ。……俺だって、ちづ姉と離れるの、辛いんだよ」
(空行)
 ちづ姉の涙は止まらなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、子供みたいに、俺のぶんまで泣いていた。
 俺はどうしようもなくて、ただ彼女の背中をさすりながらお気に入りの歌を口ずさむことにしかできなかった。初めてここに来た時、ちづ姉が俺に教えてくれた歌。何故だかわからないけど、それが今の俺にできる唯一のことだと思った。(p.37)

 

(1)ここはかなりいいシーンなのですが、セリフどうにかならないでしょうか。セリフは別に脳内音声を忠実に書き写すところではないので、濁音をうまく地の文で表現したいです。

(2)「言わないでくれよ」って、自然体のセリフとして言いますか。
(3)「えぐえぐ」「ぼろぼろ」「ぐしゃぐしゃ」で文が幼稚になります。
(4)ここまで「ちづ姉は子供みたい」を強調しすぎているので、「子供みたいに泣いた」ではなくて、できるだけ「声とか顔が子供みたい」という個別のこととして取り上げるのがよいかと思います。(というか、主人公が大人びていることを表現するために、相手を子供っぽくするのは下手なやりかたです。がんばってセリフや内面の描写で主人公を大人っぽく書くほうがよいかと思いました)。
(5)内面描写で「わからないけど」は幼稚に見えます。「けれど」のほうがしっかりした印象。
(6)後半の歌の話がやけに説明的になっているので、それはこの場面では致命的なので、回避したほうがよいかな、と感じました。
(7)「~な歌。」で体言止めをしていますが、そこで意外とリズムが崩れているので、ここはもうすべて「~した(~だった)」で流して大丈夫だと思います。
(8)空行いらないと思います。
(9)三点リーダー「……」おおすぎます。作品全体を通して多いのですが、ここはかなり集中して多いです。
(10)明らかにわかるときはいいのですが、同一人物のセリフが続くときは、もう少しわかりやすくどこかに工夫をいれるとよいかもしれません。

 

「待ってるから、待ってるん、だから……」
 ゆっくりと、だけどいきなり、ちづ姉は泣きだした。その一瞬、俺は何も言えずに、ちづ姉からあふれる涙とこぼれる本音を受け止めるので、精一杯だった。強張った声で、ちづ姉がことばを継いだ。
「東京なんか、――」
 このあとに続いたことばは、濁音混じりの、ちづ姉の本音だった。東京なんか行きたくない、そのことばが、実直な想いが、俺の心の襞を抉る。
ちづ姉……辛いよ、そんなこと言うなよ、俺だって」
 俺たちは、最後の最後になってようやく本音をぶつけあった。ちづ姉は人目をはばからずに大きく泣いた。泣けなかった俺のぶんまで泣いてくれた。泣き顔も、泣き声も、まるで子どもみたいで、俺はただ背中をさすりながら、ちづ姉がこの場所でいちばん最初に歌ってくれた歌を口ずさむことしかできなかった。それほどにどうしようもなくて、それが俺にできる唯一のことのように思えた。 

 

 いま挙げた部分を私なりに書き加えたものです。三点リーダーを減らし、えぐえぐなどをなくして普通の描写に組み込み、同一人物のセリフをつなぎ、濁音を回避し、違和感のあるセリフを変更し、子どもであることの強調を回避し、「けど」を回避し、説明的なところを解消し、体言止めのリズム停止を回避し、空行をなくしました。

 

 ここからはよかったところをいくつか挙げます。

 

そこに自分の缶を当てる。音のない乾杯。(p.32) 

 

 おしゃれですね。

 

ちづ姉の方が、俺のことをよく知っているんだな。(p.34) 

 

 ちづ姉のイメージがすごくよく表現できていると思いました。母親役をやってくれていたんだな、というのがようやく見えるところです。

 

「(…)俺はさぁ、ちづ姉のこと」
 こぼれた言葉は途切れ途切れに、しかし焦りと共に紡がれて、そこでびたっと止まった。その先は、声に出そうにも音がでない。どっ、とっ、と心臓が音をたてて、他にもう何も聞こえない。息の仕方がわからなくて苦しい。
 おれ、自分ってこんなに臆病だったか? この先に続く言葉は? ――一つしかないだろ?
 喉の浅いところに引っかかって動かないそれを、無理やり吐き出そうと……する。した。ときだった。(p.35)

 

 ぎこちない描写もありますが、ここではそれもまたよい部分になっているように思います。誠人はあまり自問自答しませんが、ここではしっかり自己言及し、ひとつの答えにたどりつこうともがいていて、ようやく「幼いときから弟たちの父親役」をやってきたと自認している人間のあるべき思考力のようなものが見えた気がします。こういうのが続けば、「幼いときから弟たちの父親役」だった誠人の本質が表現できると思うのですが、基本的に木登さんの調査不足感がいなめません。誠人の思考回路は、どちらかというと「幼いころから両親に与えられてきた」感じの、甘やかされて育った感じの子です。

 

 俺たちの間で咲く、一輪のタンポポ。俺たちの歌に合わせて、この花が土手一面に咲き誇っていればいいのに。見渡す限り、金色の絨毯が広がればいいのに。
 そうすればきっと、いつまでもこの場所を、今日という火を忘れずにいられるだろうから。
 (…)今日だけはこの歌声が神様に届くように、声を張り上げた。隣でちづ姉も声を張り上げた。
(空行)
 とぎれとぎれの音痴な歌声が二つ、重なって空へ溶けていく。(p.38) 

 

 願い事がシンプルで、誠人の心そのもので、とてもよいです。途中にはいっている「普段はそんなもの信じないくせに~」の段落は余計に感じましたが、そこがなければここの描写は完璧だなあ、と思います。最後の日に、土手で、泣きながら、両思いなのに実らなくて、それでも思い出の歌を一緒に大声で歌う。いいですよね。

 

【校正要素】
・セリフに「……」を使いすぎてだるいです。
・「わかる/分かる」
・「気付く/押しつける」
・「だす/出す」
・「あう/合う」
・「こむ/込む」
・「こと/事」形式名詞
・「ところ *形式名詞/所 *一般名詞」
・「何かを言おうと口火を切った」〈話の口火を切った〉?
・「たてる/立つ」
・「声をあげる/上げる」
・「うたう/歌う」
・「途切れ途切れ/とぎれとぎれ」

 

 

れんげそう 前編――中結弦さん

 三十ページぐらいあるのですが、まだ前編だそうです。事実的に中長編ですが、人物を書けているかというとそこまでの印象でした。サークル内で起きた恋愛のあれこれを、ダラダラ書いている感じで、読むのはしんどかったです。「春の花」というテーマは、あまりテーマになっておらず、後半どうなるのか少し心配でした。校正すべき点も多くあり、読めません。内容も都合のいい場面が多くあり、ケータイ小説っぽかったです。

 

幸いなことに、近くに歩行者はいなかった。(p.41)
そんな呆れたくなる自分の目と(…)。(p.43) 

 

 細かいところですが、一人称視点での「幸いなことに」「呆れたくなる」がよくわかりませんでした。


【校正要素】
・「一歩」「四年間」「5階」「三回目」「五分もかからない」「二十年」「三年」「一つ」「三つ」「高三」
・「歩道は上から見ていたよりも」脱字
・「わかる/分かる」
・「~込む/こみ上げる」
・「JOIE」「THE」が横になっています。
・「慌てて/あわてて」
・「一つ/おひとつ」
・「たとえば――」ダッシュ後の句点なし *p.48には挿入
・「『……!』」セリフとしてどうでしょうか。
・「なに/何」
・p.46上段真ん中、下段右3行目、下段真ん中、記号後のスペースが文頭に
・「訊ねる」この変換で大丈夫でしょうか。実はこれを使うのはまちがいです
・「いつのまにか/いつの間にか」
・「食い込んでくる気なのか?遠慮って」スペース
・「やつ/奴」
・「しまっているのか?それはちょっと」スペース
・「命令しているような――」句点
・「ん?」
・「言う/いう」
・「『すでにお前は、お前の言う俺の『キラキラした』日常の一部に』」で二重鉤括弧の重複
・「JOIE(喜び)のケーキ――」句点
・「夢の世界があるからよ。 甘酸っぱい」なぞのスペース
・「為/ため」
・「作る/つくる」
・「付ける/つける」
・「事/こと」
・「シュパっという送信音」「わらわらと」
・「いつのまにか/つかの間/あっという間」
・「「「「かんぱーい」」」」地の文で表現できると思います
・「告白した?どこで」スペース
・「! よお!」「!? ……まあ」「! あ、おい」
・「――それにしても」文頭の字下げ忘れ
・「欲しい/ほしい」形式形容詞と動詞
・「無理/むり」
・「過ぎ/すぎ」
・「頷く/うなずく」
・「人込み/こめる」

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 著者のわからない都々逸とSSと、特別企画の質問と、あとがきとは省きます。企画とあとがきは、おそらく誰も校正していないのではないかと存じます。校正専任がいると聞いていたのですが、読み終わったあとは、逆にどんな観点から校正しているのか気になりました。エンターテイメント小説として書きたいのか、そのなかでもルールの多いライトノベルで書きたいのか、そのあいだにあるライト文芸で書きたいのか、それぞれの著者がやりたいことがよくわかりませんでした。唯一、「ちいさなぼくらに」だけが、「ああ、大人な男の子を書きたいんだろうなあ」とわかりましたが。

 

 小説をたくさん読んでから書いたほうがよいのではないかと感じました。テーマ性にしろ、エンターテイメント性にしろ、弱いです。校正のほうは、もう少し校正しましょう、という感じでした。次号に期待です。